イトログはじめました。
お店のブログということで、どうしてもお店からのお知らせがメインになってしまうのは致し方ないことではあるのだけれど、僕イトウ自身の個人的な言葉のアウトプットの場として思い切って新しいカテゴリを作ってみた。
名付けて『イトログ』。
イトウのブログ、だから『イトログ』。
なんのひねりもない名前だけど、これくらいがちょうど良い。
肩を張らず、フラットな気持ちで日々を綴れれば良いのだから。
記念すべき、というほど大層なものでもないけれど、それでもやっぱりイトログ最初の記事 。
テーマは何にしようかと想いを巡らせるうちに、やっぱり僕の日々の仕事であるコーヒーの話題になってしまった。
僕がコーヒー屋をやるようになったきっかけ。
『きっかけ_001』
僕が幼い頃、日曜日になると父が朝から街のパン屋に連れて行ってくれ、いくつかの焼きたてのパンを買っては家族で遅めの朝食を食べるという時期がしばらくあった。
かっこつけの父のことだから、一時の流行りごとだったのだろう。
その時淹れていたコーヒーが息子の人生に影響を与えるとも知らなかっただろうに。
パンを買って帰宅すると、決まって父はコーヒーを淹れていた。
折り目をつけたフィルターにコーヒーの粉を入れ、シュンシュンと蒸気を立てるポットからお湯を注ぐ。
蒸らしだの膨らみだの難しいことは一切考えず(父は考えていたのかもしれないが)、 人数分のコーヒーが落ちればおしまいの数分間。
キッチンに立ち込める香りと、父のドリップ姿は今でもぼんやりと覚えている。
僕がコーヒーを覚えたのはこの時期だ。
「砂糖は入れないほうがいい」と父から教わり、黒くて苦い液体を無理やりに美味しいと言い聞かせながら飲んでいたが、これがなければコーヒーに興味を持つこともなかったかもしれない。
時は巡って18才くらい。
僕は長崎市にあるカフェでアルバイトをやっていた。
なんとなくの趣味がカフェ巡りのようなもので、新しいお店を見つけるとふらりと立ち寄って食事やらコーヒーやらを楽しむうちにこのカフェのマスターから誘われたのがきっかけだった。
別にコーヒー専門店ではなかったし、食事からアルコールまでを作っては提供していたが、仕事の一つとしてコーヒーのドリップも教わり、カウンターの中で自分なりの美味しさを求めると同時に、知らず知らずのうちにカップを満たすコーヒーのように底の見えない深みにハマっていく僕がいた。
親に似たのか凝り性で、コーヒーの本やコーヒー特集が組まれた雑誌を買っては読み漁り、仕事の合間をみながらお店の道具を借りて試す毎日。
そのうちに出会った一冊の本『ブルータス』では、スペシャルティコーヒーの特集が組まれ、苦い飲み物からの脱却を図ったような内容でひときわ興味を抱いたのを覚えている。
いつものようにパラパラとページをめくっていると、 掲載された一軒のコーヒーショップが目に止まった。
福岡という現実的に訪問ができる距離で、さっそく他の用事も作りながら福岡へ行くことにした。
お店のドアを開けた瞬間に鼻に入ってきた店内に充満する甘くて華やかで、どこか洋菓子屋の焼き菓子を思わせるような香り。
全く新しい世界に飛び込んだみたいでワクワクした。まるで新しいゲームソフトを買ったときのような高揚感があった。
飲ませてもらったコーヒーの味はいつでも鮮明に思い出せる。
花の蜜のようなアロマ、ベリーを思わせる重厚感のある酸味、そしてミルクチョコレートを感じる甘さ。
僕が初めて出会ったスペシャルティコーヒーはケニアのコーヒーだった。
そこからは一直線にスペシャルティコーヒーにのめり込んだ。
幼い頃からの記憶にある苦いコーヒーの味はなんだったのだろう。
染み付いた記憶との違いに戸惑いながらも新しいコーヒーの世界に入り込めたことが楽しかった。
様々なスペシャルティコーヒーと呼ばれるコーヒーを飲むうちに、初めて『作り手』という存在が僕の中に現れたような気がした。
− つづく