イトログ_005
『きっかけ_005』
美しい景色やそこで働く人たちの写真を撮りながら、僕にはひとつの感情が芽生え始めていた。
「自分もコーヒー豆が買いたい。」
一度でいいから産地が見てみたいと言って無理やり連れてきてもらったものの、そこでの生活を通じてわずかながらに僕は農家たちとの繋がりを感じていた。
もちろん、言葉が通じる訳でもなく、長い時間寝食をともにしたわけではない。
(美味しいお酒は一緒に飲んだのだけれども)
僕が一方的に好意的になっていたのかもしれない。
それでも実際に目の前に広がるコーヒー農園で栽培されるコーヒー豆、そしてそれを生み出している農家さんたちを前に、僕は彼らのコーヒー豆を買いたい気持ちでいっぱいになっていた。
もしかしたら、その気持ちが自分の内から漏れていたのかもしれない。
ある日の晩、僕を産地に連れてきてくれた人からこう聞かれたのだ。
「こんなの見たら買いたいでしょ。」
僕は間髪入れずに「買いたい」と返事をし、産地見学ツアーは晴れて初めての買い付け渡航になったのである。
あとから聞くと、僕を産地に連れて行くとみんなで話し合ったときにはすでにそういう流れができていたらしく、産地での僕の行動を見て、ほら、やっぱりね、となったのらしい。
とにもかくにも、僕はこの瞬間からこのグループの共同買い付けメンバーの一人となった。
当然、自分で買い付けるコーヒー豆を選ばないといけなくなったわけだ。
飛び上がるほどの嬉しさの陰で、大きな不安もよぎっていた。
自分が選ぶコーヒー豆の品質、というよりは、自分がお店で販売しているコーヒー豆の量と、現実的に買い付ける為の資金、が大きく不足していたからだ。
実際、この年に僕が買い付けた量は、当時僕がお店で販売していたコーヒー豆の倍以上で、冷や汗をながしながら数量のオファーを出したのをよく覚えている。
資金については、創業時にお世話になった機関からの協力でなんとか工面することができた。
2週間の買い付け渡航を終え、日本へ帰った数ヶ月後、自分がオファーを出した通りの大量のコーヒー豆がお店に届いた。
それをみて、改めて(大丈夫かな、、)と思いながらも、自分が実際に見て、カッピングして選んで、なにより農家さんたちの手から直接渡されたようなコーヒー豆に言葉にならないような喜びを感じた。
− つづく