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イトログ_009

『不採用です』

 

僕と妻、二人で始めたこのお店も、年々スタッフが加わり、今では6人で運営するお店になった。

これまで何度かスタッフを募集したけれど、ありがたいことにその度にたくさんの応募があり、その全員を面接させてもらっている。

コーヒーが好きなことはもちろん、みんながそれぞれに魅力的な部分をたくさん持っていて、その中から採用を決めるこのスタッフ募集の時期こそが、僕が一番精神を削る時期かもしれない。

職を辞める覚悟で応募してくれた人や、県外から移住を決めて応募してくれた人、お店で飲んだコーヒーがきっかけでコーヒーにハマり働きたいと望んでくれた人など、それぞれに大きな覚悟と決断を持って面接にきてくれた人ばかりだ。

 

僕は人事をやるにあたって、決めていることがふたつある。

 

ひとつめは、応募者全員を面接すること。

 

どんなに応募が多かろうと、条件に合ってなかろうと、応募してくれた人全員を直接面接している。

その人がどのような性格でどんな声で話し、どういった魅力を持っているのかなんて、履歴書の紙切れや小さな写真じゃこれっぽっちもわからない。

全員と会うからこそ採用するときに身を削るのだけれど、直接話をすることはお店にとっても僕自身にとっても、とても重要なことだと経験上感じている。

 

そしてふたつめが、その全員に返事をすること。

 

僕がまだこのお店をやっていなかったころ。

働きたいと思って応募した会社から返事がないことが度々あった。

その度に気持ちだけが先走って焦り、悶々とした日々を過ごすことがあった。

応募する人もそれぞれに覚悟を持って行動している。それであれば、面接する僕らも対等な覚悟を持って人事に望むべきだ。

一方的な力関係を押し付けられた経験があったからこそ、僕は面接をした全員に電話して返事をすることにしている。

 

たとえそれが『不採用』だったとしても。

 

電話の向こうで落胆し、歯を食いしばる音が聞こえる度に僕も同じくらいに心が痛むのだけれど、一瞬でも人生を委ねられた以上、きちんとした形で返事をすることが会社側の義務ではなかろうか。応募者と会社との間に力関係はそもそも寸分たりとも存在していないのだから。

 

小さな会社の経営者として、僕はこれからもたくさんの人に会っていく。

そのひとつひとつに僕は育てられ、ステップアップするきっかけを与えられているのだ。

ほんの一瞬、人生が交わったその人たちこそ、僕の中での存在感は大きい。

 

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