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イトログ_017

 

『サラティエルさんの死』

 

2018年を迎えてすぐの1月5日、ラ・エスペランサ農園のサラティエルさんが交通事故で亡くなったとのメッセージがニカラグアの農家さんから届いた。

僕は最初そのメッセージの意味がわからず、どういうことなのだろうとぼんやり考えていたのだけれど、その後しばらくしてサラティエルさんの息子サミュエルから送られてきたメッセージを読んでその全てを理解した。

 

ニカラグアは今、収穫期の真っ只中。この時期はピッカーと呼ばれるコーヒーの実を収穫する季節労働者で農園は溢れかえる。

ただし近年、季節労働の収入の不安定から、通年雇ってくれる都市部のタバコ工場に勤めたり、コスタリカやパナマといった隣国へ出稼ぎに行ったりと、ピッカーそのものの数が減り、結果、収穫期に腕の良いピッカーを獲得すること自体が難しくなっている。

サラティエルさんが事故にあったのは自身の農園があるエリアとは違うエリア。

地元のニュース記事ではおそらく収穫を手伝ってくれるピッカーを探しに出かけていたのだろうと。その道中の出来事だったそうだ。

 

サラティエルさんに最初に出会ったのは2011年。一昨年まで一緒に買い付けをしていたグループにニカラグアに連れて行ってもらったときだ。

滞在しているオコタルの街からほど近いディピルトというエリアで、農園に着くなりずんぐりとした体格の熊のようなおじさんが現れた。サラティエルさんだ。

彼はみんなを家の中に招待し、ひとりひとりにお土産を手渡してくれた。ここから昨年まで毎年彼には会うのだけれど、ロバの置物やテーブルいっぱいのフルーツ、農園のロゴが入ったTシャツなど、その度にたくさんのおもてなしをしてくれた。

 

彼の農園で収穫の体験をしたことがあった。

手ほどきを受けていざ収穫。しばらくすると彼が僕が収穫したカゴの中のコーヒーチェリーを手に取りスペイン語で話しかけてきた。

「これは一見赤く熟したように見えるけれど、裏面にいくにつれて少しずつ黄色になっている。これはまだ収穫するには早いんだ」

こういった内容のことをジェスチャーを交えながら熱心に丁寧に説明してくれた。収穫中の手つきや高い枝についたコーヒーチェリーの収穫の仕方など、実際の収穫も目の前で実演してくれた。

 

ある年、ディピルトエリアのコーヒーの品質が例年よりも下がったことがあった。コーヒーの木の病気であるサビ病が中南米を襲ったときだ。

彼の家でいくつかの食事とフルーツを囲みながらこんな話をした。

「今年はコーヒーの品質があまり良くない。コーヒーチェリーが熟す途中に落ちてしまったり、木そのものの状態もあまり良くないようだ。雨も多い」

何でも屋の彼は焙煎もやったりはするけれど、コーヒーの味を専門的に評価できることはなかった。これまで培ってきた経験と木の状態から間接的にコーヒーの味を評価していたのだろう。実際、カッピングの結果も良くはなかった。

チェリーの状態などいくつかの成分検査は実施していたものの、肌感覚で直感的にコーヒーに向き合う彼の正確さに驚いたのをよく覚えている。

 

結果的に最後に彼に会うことになった2017年。

初めて一人でニカラグアを訪問した僕を彼はいつもと同じように迎えてくれ、息子のサミュエルさんと一緒にこれからのビジョン、サラティエルさんとサミュエルさんのそれぞれの考え、今後の農園の方針、そういったことを農園の中で話してくれた。

その話を聞きながら今後サミュエルさんに農園が引き継がれた先のことを僕自身とても楽しみに感じたし、きっと彼らも希望や未来を描いていたはずだ。

 

その夜、街のレストランでサミュエルさんと夕食をとっていたらサラティエルさんがやってきた。

手には箱入りのクッキー。僕の子どもたちにと持ってきてくれたのだ。どうやらクリスマスの売れ残りで、彼そっくりのサンタクロースのイラストが描かれたパッケージに思わず笑いがおき、彼自身もそれを顔のそばに近づけて写真を撮らせてくれた。

お決まりなのかもしれないが「また来年」という言葉を交わし別れた。彼との最後の時間だった

 

カメラを向けるといつも何かしらのリアクションを見せてくれるので明るい写真ばかりが残る彼だが、時折とても真面目な顔で話す時があった。コーヒーの話や生活の話、家族の話をするときだ。

コーヒーの買い付け額がそのまま生活に直結する小さな農家であったため、評価や買い付け額などにはとてもシビアだったと思う。僕なんかはあまり量を買えるような大きなコーヒー屋ではないから取引をする負担も大きいだろうに、毎年あたたかく迎えてくれ、一緒に農園を案内し、確かな品質のコーヒーを譲ってくれる。

今になって僕はその心遣いになにか応えていれたのだろうかと不安になるくらいだ。

 

美味しいコーヒーが当たり前に手に入るようになってきて、そのぶん作り手の顔も消費者から見えやすくなってきた。

でもそれだけではダイレクトトレードは成り立たず、お互いの生活や人生のようなものを重ね合わせながらひとつの共同体として一緒にコーヒーを作っていく覚悟が必要となる。

 

消費の現場から作り手の顔が見えることが透明性だとは僕は思わない。

むしろ作り手から消費の現場が見えることが真の透明性でありダイレクトトレードだと思う。

 

今年も4月にニカラグアを訪問することにしていて、もちろん彼の農園も訪ねる予定だ。サミュエルさんの意向もあり、今回は少しゆっくり彼らと過ごせたらと思っている。

 

 

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